プードル、ビション、シュナウザーなど
可愛くて多彩なスタイリングを楽しめる犬種ほど、日常はいつも“毛玉との戦い”だ。
トリマーとしては、毛玉ができていたことをお伝えしたり、やむなく短くカットせざるを得ないとき、胸が少し痛む。
飼い主さんもいい気はしない。
犬にも負担がかかる。
まさに、百害あって一利なし。
だからこそ僕たちは、毛玉ケアの方法、毛玉になりにくいデザイン提案、適切なトリミング周期のご提案など、飼い主さんと一緒に予防の仕組みを作っている。
……とはいえ、毛玉予防の情報は今やネットやSNS、YouTubeに溢れている。
気になる方はサクッと調べられる時代だ。
そこで今回は発想を逆転させて、あえて「毛玉を作る方法」を解説する。
毛玉は一度できると除去が大変だ。
だからこそ“作り方”を理解すれば、仕組みが分かり、避けるべき行動がはっきりする。
極端な比喩だけれど、例えば「病気になる方法」を知っていれば、その行動を慎むはず。
それと同じ理屈だ。
それでは、毛玉のレシピを早速ひも解いていこう。
(※もちろん“絶対に真似しないで”が前提!)
毛玉の作り方講座 ― 5つのレシピ(※まねしないでね)
先に断っておくと、ここで紹介するのは毛玉を増やす最短コース。
読んだら逆をやってくれたら満点。
① 濡らして自然乾燥させる
『お家でお風呂に入れよう。
けど、乾かすの大変だなぁ。
ちょっと湿ってても自然と乾くでしょ!?』
うちの子、外でしかトイレしないから雨の日は大変。
乾かすの大変だから、タオルで拭いてそのままでいいや。
強烈な毛玉を作りたければ、濡らしてそのままにするのが最速の方法だ!
加えて、すでに毛玉ができている状態で、さらに濡らして自然乾燥を繰り返せば、テレビでよく見るガチガチ毛玉犬が完成する。
ちゃんと汚れが落とせていない洗い方、シャンプー剤のすすぎ残しがあると、さらに強烈な毛玉になる!
そもそもどうして濡れると毛玉ができる?
(1)濡れると引っかかりが増える
毛は表面が“うろこ”みたいな構造(キューティクル)。水を含むとこのうろこが少し開き、毛どうしが引っかかりやすくなる。
(2)こすると一方向に噛み合う
毛は「根元→毛先」は滑りやすく、「毛先→根元」は滑りにくい“向きの差”がある。濡れたままゴシゴシすると、毛が滑りにくい向きへズレて噛み合い、束が締まっていく(マジックテープのイメージ)。
(3)濡れているほど滑りが悪い
水で柔らかくなって、表面の油膜も落ちると余計にすべりが悪くなり、絡みが進む。
(4)自然乾燥でギュッと固定
乾く途中の水が“吸着剤”になって毛どうしを引き寄せて締め付ける(表面張力)。そのまま乾き切るとフェルト状に固まってしまうというわけだ。
このように、濡れることで、毛髪の性質は変化し摩擦の影響を受けやすくなる。
特に、《耳の付け根》《脇》《内股》《首回り》は、【動く+擦れる+蒸れる】の三拍子で一気に固まりやすいので注意。
毛玉を作らない濡らし方
★しっかり洗って、しっかり濯ぎきろう
★タオルドライは押し当てて吸水(ゴシゴシ禁止)しよう
★根元まで完全乾燥しよう
★風は毛流れに沿って当てよう
★耳の付け根・脇・内股は先に乾かす吉
② 四六時中、服を着せっぱなしにする
水に濡れるのと同じくらい、毛玉を発生させることができるのが【長時間の洋服着用】だ。
さらに、鎧のような毛玉を纏わせたいのであれば、《水で濡らす》+《洋服の着用》の合わせ技が最強である。
濡れたバサバサの毛を、洋服でギュッと圧縮させ乾かすことができる、この上ない方法だ。
どうして毛玉ができる?
服を着た愛犬ちゃんは可愛いけれど、絶えず体に摩擦を加えてしまうのが被服だ。
しかも内側は湿気がこもり、毛が潰れて絡みやすい。
特に体との密着が強い部分、袖ぐり・脇・胸・腕の付け根がホットスポット。
毛玉を作らない服の着方
★服は用途と時間を区切ろう(散歩用・防寒用など)
★脱いだらブラッシングでリセットしよう
★静電気予防のブラッシングスプレーを使うと◎
★裏地が滑らかでサイズが合うものを選ぼう
③ お手入れせずに2〜3ヶ月、トリミングに出さない
毛玉を作りたくば、“毛を伸ばす”のが効果的だ。
長さの分だけ摩擦がかかる面積が増え、絡まりやすくなる。
お手入れをせず、汚れを溜め、どんどん毛を伸ばしてあげれば死ぬほど絡まる。
どうして毛玉ができる?
伸びた毛はその分、絡まる面積が多い。
そして、被毛が増えるほど湿気も外に逃げにくくなる。
そこへ日常の摩擦が加わり、だんだんと根元から塊になる。
毛玉を作らないトリミングの出し方
★3〜4週間目安でトリミングをサイクル化しよう《毛の伸びやすい犬種(プードル・ビション・シュナなど)は特に》
★週2〜3回の“ブラッシング”をしよう(スリッカー+コームで皮膚から通す)
★定期的に全身カットができない時は、もつれやすい部分だけのピンポイントケアだけサロンにお願いしよう
④ 運動をしない
毛玉を量産したくば、徹底的に運動不足にすればいい。
狭い空間で自由な行動を制限すればいいだけだ。
言わずもがな、運動不足は健康を損なう。
健康を損なうということは、血流が悪化し全身に十分な栄養を供給できない状態でもある。
血流が悪いと、当然被毛の状態も悪くなる。
“芯まで潤いが満たされている毛”と“水分が少なくパサついている毛”はどちらが絡まりやすいだろうか?
どうして毛玉ができる?
運動不足は毛玉発生の直接的な原因ではない。あくまで間接要因。
運動不足による毛玉発生の仕組みは主に3つ考えられる。
(1)寝ている時間が増える
運動が少なく、動かない生活は寝転び時間が増えて被毛が圧迫され、蒸れが増加する。
体温が局所にこもり、床に押しつぶされやすい部分(お腹・脇・お尻など)の被毛が絡むんでしまう。
(2)ストレスが溜まる
運動不足は愛犬のストレスを溜め込ませてしまうことにもなる。
それにより、《足先の舐め》《体を掻く》などのストレス行動を誘発させてしまう。
舐め・掻くという物理刺激は当然、毛玉の発生源だ。
(3)代謝が乱れる
運動不足は代謝・皮脂バランスの乱れにもつながる。
皮脂が過剰に出すぎてべたついたり、逆に乾燥肌になり被毛パサつくことが起こってしまう。
ベタつきもパサつきも毛の絡みを助長する。
毛玉を防ぐ運動習慣
★お外に出してあげる時間を増やそう
→体をブルブルさせたり、全身で風を受けることにより、動くことで被毛が自然にほぐれる機会が増える。
★ベッドやマットにこだわろう
→繊維の引っかかりが少ない素材を選び、こまめに洗濯・乾燥させるように。
★室内でも動く機会を増やそう
→知育トイや引っ張りっこで“同じ姿勢の時間”を減らすと◎
⑤ 質の悪いフードを食べさせる
運動不足と同じように、食べ物の質を下げて健康状態を悪化させれば毛玉になりやすくなる。
どうして毛玉ができる?
私たちの毛髪もそうだが、犬の被毛はタンパク質のかたまり。
栄養バランスが崩れると毛が細く・弱く・乾きやすくなり、静電気やゴワつきで絡みやすい質感に。
脂肪酸バランスの偏りはベタつきやフケも招き、ヘアワックスのように毛と毛を固めてしまう。
毛玉を防ぐ愛犬の体質と生活習慣にあったフード選び
★動物性たんぱく質が主体で、脂肪酸(オメガ3/オメガ6)バランスに配慮したフードを選ぼう
→原材料ラベル先頭が肉や魚の製品を選ぶ。穀物が多く使われているのは要注意(低価格化のためにカサ増ししているかも)。オメガ3/オメガ6のバランスを重要視しているメーカーか。AAFCO基準も確認。
★体質に合わせてペットのプロに相談し、急な変更はしないようにしよう
→体質・持病・アレルギーを確認し、獣医やトリマーに相談。新しいフードへの切り替え期間は1〜2週間必要(新しいフードに身体を慣れさせるため)。旧フードに新フードを少量ずつ混ぜながら1~2週間かけて切り替える。軟便や痒みが出たら中止し再相談しよう。
★しっかり水分補給もさせよう
→水分は体内のあらゆる代謝に欠かせない。皮脂の流れを助け、絡みを減らすことにもつながる。新鮮な水を複数箇所に置き、ドライフードをふやかしてあげるのもおすすめ。
毛玉ができやすい“ホットスポット”早見表
①耳の付け根
②頰の下
③脇
④股
⑤後ろ足の内側
⑥首輪・ハーネス・服の縫い目周辺
⑦しっぽの付け根
⑧お尻まわり
⑨前胸
⑩前足の関節周辺
⑪足先
ここだけでも、毛をかき分けてチェックすれば、全体の8割の毛玉を未然に防げる。
コームが通るか確認するとなおGOOD!
まとめ
★入浴・雨上がりは完全乾燥(根元→毛先、風は毛流に沿わせる)
★服は時間限定、脱いだらリセット・ブラッシング
★3〜4週サイクルでプロのメンテ(犬種・毛量で前後)
★寝床は低摩擦素材+清潔をキープ
★積極的に身体を動かす
★フードはたんぱく質と必須脂肪酸に配慮、水分補給も
レシピは知って、ひっくり返す
毛玉は湿気・摩擦・時間の三兄弟が大好物だ。
“毛玉の作り方”を知れば、湿気を切り、摩擦を減らし、時間を空けないで封じ込められる。
飼い主さん・トリマー・わんこ、みんなが笑顔でいられる小さな習慣の積み重ねこそ、最強の予防策だ。